中村 航

文庫本ぐるぐるまわるすべり台
ぐるぐるまわるすべり台
単行本版も参照

何かを始めて、それを止めて、また何かを始める。この物語はこうして繰り返す日々の一部が切り取られて描かれています。今までをストップし、4月まで塾でアルバイトをすることだけを決めた主人公が、塾には来る不登校のヨシモクを教えながら新生活を始めます。そのうち今度はヨシモクの名で自分のバンドを作ろうと考え、バンド作りをしながらまた次を始めます。そうして一つ一つ何をするか決めることで、あちこちで新しい物語が動き始めます。初めは少し読みにくくも感じましたが、繋がると面白くなってきました。

文庫本リレキショ
リレキショ
単行本版も参照

最初から何者なのか分からない主人公の良。全くの新しい生活が始まっていく。まず新しい生活の第一歩として、自分は誰なのかを確かめるように履歴書を埋めていく。ついでにもう一枚リレキショとしてなりたい自分を書き込む。後は毎日を反復していけばいい。楽しいことが自分からやって来る。良の感じている世界が突然記憶をなくしたのかと思うくらい、全て初めての感覚のように表現されているところが面白い。魅力あふれる人の創り上げた世界をどうぞ。

単行本100回泣くこと
100回泣くこと
→文庫本版未発売

悲しいことがあれば、泣く。すごく自然だけれど、すごく不本意な行為でもある。泣いても何も変わらない、前に進まない、分かっていても泣いてしまう。この主人公は悲しさや、やるせなさを前に、どうにもならずに泣きます。そして自分の愛犬のためや、恋人のためにできることを探し、想いを巡らせます。主人公は泣き抜き、自分の気持ちと決別する。作中では、愛情が涙へと変わっていく様子だけでなく、喜びの時間が非常に綺麗な言葉で表現されています。