重松 清

文庫本口笛吹いて
口笛吹いて
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哀しいくらいに変わってしまった、憧れていた先輩との偶然の再会。ジュンペー、晋さん、と呼び合うこともできず、昔のようにカッコ良かった自分のヒーローでいてもらいたいと思うも、気持ちはすり抜けていく。負け続け、負けることに慣れ、ねじれた心は元には戻らない。現実の冷たさに、人はそれぞれ都合の付け方を覚えていく。そんなズルい大人に囲まれた中で、ただひたむきに練習する息子が輝いている。変わっていく寂しさと、負けることの口苦さの中に、変わらないものが仄かに光っている。

文庫本トワイライト
トワイライト
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未来に一体何が残せるだろうか。1970年代、大阪万博の頃、日本全体が多くの未来を語った。アポロ計画、鉄腕アトム、ドラえもん…。21世紀という遠い未来。だがその未来はもう来てしまった。毎日を過ごすのも精一杯。自問の日々。…こんなはずじゃなかった。そう、21世紀はもっと夢があって、もっと輝いていた。そんな時、皮肉にも同窓会が行われ、タイムカプセルを開けることに。未来の自分たちへ送ったタイムカプセルが、今重く語りかけてくる。

文庫本見張り塔からずっと
見張り塔からずっと
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ゴミを漁る姿をよく見られるカラス。お腹を満たすためには手段を選ばない。でも漁るゴミがなかったら?共食いですね。この小説ではカラスになぞってマンションの住人たちを描いています。バブル絶頂時に新築のマンションを買った夫婦と他の住人。地価が上がることで心を満たしていた。しかし地価は下がり始める。満たされない気持ちは行き場を失い、新しく越してきた家族に降りかかる。お腹を満たすためには手段を選ばないカラスのように、住人たちはこの家族を餌食にする。このエサ、甘いが後味は良くありません。